目次
- インバウンド需要とは?越境ECとの関係性
- 越境ECの現状と今後の市場動向
- なぜ今、越境ECに取り組むべきなのか?
- インバウンド施策と連携した越境ECの成功法則
- 越境ECサイト構築のポイントと注意点
- 実店舗運営者が越境ECを始めるステップ
- まとめ
訪日外国人観光客の増加とともに、日本国内での消費行動は大きく変化しています。観光中に購入した商品を、帰国後にオンラインで再び購入する――そんな行動が一般化しつつある今、実店舗とオンラインを組み合わせた販売戦略がますます重要になっています。
特に、越境ECはインバウンド需要と連動することで、単発の購買を継続的な売上へとつなげる強力な武器になります。日本の製品やサービスに信頼を寄せる外国人観光客は、訪日中の体験をきっかけに、自国でも同じ品質・価値を求めてECを利用する傾向にあります。
本記事では、そうした新しい購買行動にどう対応すべきか、企業や実店舗運営者が押さえておくべきポイントを具体的に解説していきます。
1. インバウンド需要とは?越境ECとの関係性
インバウンド需要とは、訪日外国人観光客が日本国内で行う消費活動全般を指します。観光・宿泊・飲食にとどまらず、日本製の家電、化粧品、日用品、キャラクターグッズなどの購買もその一部です。
実際、日本政府観光局(JNTO)の発表によれば、2024年の訪日外国人旅行者数は年間3,600万人を超え、過去最高であった 2019 年を約 500 万人上回り、年間過去最高を更
新しています(出典: JNTO/訪日外客数)。特に韓国、台湾、中国、アメリカ、タイ、ベトナムといった地域からの訪日客が多く、「買い物」は今や訪日目的の上位に位置する要素となっています。
近年では、その購買行動が“その場限り”にとどまらず、帰国後も継続的な購買へと発展しています。旅行中に見つけたお気に入りの商品をもう一度手に入れたい、あるいはSNSなどで他の人が紹介していた商品を試してみたいというニーズが、越境ECの利用へと自然に繋がっているのです。
こうした背景のもと、「インバウンド消費」と「越境EC」は、もはや別々のものではなく、連動して考えるべきビジネス戦略になっています。特に、訪日中にブランドや商品に触れた顧客が、帰国後も“ファン”として継続的にオンラインで購入を行う流れが定着しつつあり、この循環をいかに仕組みとして設計するかが、企業の越境EC成功の鍵を握ります。
たとえば、観光地で人気の商品をECサイトでも見つけられるようにしておく、店舗で購入した顧客に越境ECの情報を提供する、SNSでのコミュニケーションを活用して再購買を促すなど、実店舗とECを組み合わせた顧客導線の構築が有効です。
つまり、インバウンド需要は単なる「国内での消費」にとどまらず、越境ECを通じて“継続的な海外顧客”へとつなげられる、大きなビジネスチャンスとなっているのです。
2. 越境ECの現状と今後の市場動向
世界中でオンラインショッピングが加速する中、越境EC(Cross-Border E-Commerce)は、日本企業にとって“国内にいながらグローバル市場に参入できる”有力な販路として注目を集めています。経済産業省の発表によれば、2023年の日本から中国・アメリカ向けの越境EC市場規模は約3.9兆円に達しており(出典: 経済産業省/令和5年度 電子商取引に関する市場調査 報告書)、年々その勢いは増しています。
2-a. 拡大を続けるターゲット市場
現在、越境ECの主要な販路となっているのは、以下のような国や地域です。
- 中国:日本製品への信頼度が高く、「安心・高品質・ブランド力」で人気。特に美容・健康関連商品、ベビー用品などが売れ筋。
- 台湾・香港:文化的・距離的な近さから、日本の商品・サービスへの親和性が非常に高い。
- アメリカ:オタク文化、和食、キッチン用品などのニッチ市場が拡大。
- 東南アジア諸国(タイ、インドネシア、ベトナムなど):モバイルECの普及により、今後の成長が期待される市場。
これらの市場は、いずれも訪日観光客の多い国々と重なっており、インバウンド需要との相乗効果を狙う上でも非常に重要なターゲットです。
2-b. インバウンド回復が越境ECにもたらす好循環
越境ECの拡大は、単に“海外で売れる”という話ではありません。実は、訪日観光客の回復そのものが越境EC市場に追い風となっているのです。
たとえば、日本旅行中に商品を購入した外国人観光客が、帰国後にそのブランドやショップを思い出し、越境ECを通じて再購入するケースが増えています。これは“インバウンド体験”が“越境リピート”を生む好循環であり、リアルな体験を経由した消費行動だからこそ、ECにおけるブランド信頼度やコンバージョン率が高いという特徴があります。
また、現地での購入が難しい地方商品や工芸品などは、旅行先で知ったことをきっかけにECで注文されることも多く、日本全国の地域経済にとっても新たな販路の創出につながっています。
2-c. 今後の市場トレンドと期待される変化
今後、越境EC市場はさらに多様化し、「モバイルファースト」「動画マーケティング」「ライブコマース」「現地SNSでのインフルエンサーマーケティング」など、新しい集客手法が主流になっていくと見られています。
特に注目されているのは、「観光+購買+オンライン連携」を前提としたハイブリッド型マーケティング戦略です。これは、訪日中の顧客体験から、帰国後の越境EC誘導、さらにはSNSを介したクチコミ拡散までをひとつの流れとして設計するアプローチであり、今後の越境EC競争で差別化を図る重要な鍵になります。
3. なぜ今、越境ECに取り組むべきなのか?
「越境ECは前から気になっていたけれど、始めるにはタイミングが難しい」──そう考えている企業担当者や経営者は少なくありません。しかし、今こそがまさに越境ECを本格的に始める絶好のタイミングです。その理由は、大きく3つあります。
3-a. 円安の追い風と価格競争力の向上
現在の為替状況は、越境ECにとって非常に有利な環境です。円安が進行する中で、日本の商品は海外から見ると割安感が強く、購入のハードルが下がっています。たとえば、1ドル120円の時よりも1ドル150円の今のほうが、同じ価格の日本製品が「よりお得」に感じられるというわけです。
特に、化粧品や生活雑貨、ファッション、食品などは価格競争力が上がっており、「高品質かつ手頃な日本製品」としてのブランドイメージが強化されています。
3-b. インバウンド顧客との“その後”をつなぐ導線設計
訪日外国人観光客が急速に戻ってきている今、店舗や施設に来てくれたお客様と一度限りの接点で終わらせない仕組みづくりが重要です。そのための最も有効な手段が「越境EC」です。
たとえば
- 店舗で商品を気に入ったお客様に、帰国後でも購入できるECサイトを紹介する
- 会計時にQRコードを配布して会員登録を促す
- LINEやWeChat、メールなどを活用して帰国後にプロモーションを届ける
このように、実店舗の体験を起点とし、ECサイトでの再購入へとつなげる導線を整備することで、「一見客」から「リピーター」へと顧客を育成できます。
3-c. オンライン購買への抵抗がないグローバルな購買層
海外では、日本以上にオンラインショッピングが生活の中に根付いています。特にアジア圏では、モバイルからの購入、ライブ配信での買い物、SNS経由の購買が日常的です。これはつまり、日本企業が越境ECを始めたとしても、現地のユーザーは「すでに購入の準備ができている」ということを意味します。
さらに、コロナ禍を通じて消費者の購買行動は大きく変化し、「旅行に行けない間はオンラインで日本の商品を買う」という行動様式が浸透しました。この越境ECによる代替体験が、インバウンド回復とともに、リアル体験の補完手段として定着しつつあります。
4. インバウンド施策と連携した越境ECの成功法則
訪日観光客の増加は、実店舗への来店者数を押し上げるだけでなく、その後のオンライン消費にも大きな影響を与えます。しかし、越境ECにつなげるには「ただ商品を売る」だけではなく、訪日中の体験と帰国後の購買行動を連動させる設計が必要です。ここでは、インバウンド施策と越境ECをうまく連携させるための実践的な方法を紹介します。
4-a. 店舗での導線設計と越境ECへのスムーズな誘導
まず重要なのが、訪日中のリアルな購買体験から、自然な流れで越境ECサイトへ導く仕組みを構築することです。
たとえば以下のような方法が挙げられます。
- 商品タグやパッケージにQRコードを設置し、ECサイトにアクセスできるようにする
- 会計時に次回使えるクーポン付きのフライヤーを配布する
- 店舗スタッフが購入者に対して多言語でECサイトの存在を案内する
これらの施策により、「旅行中の購買体験」を「帰国後のリピート購入」へと繋げることができます。
4-b. SNS・口コミを活用したブランド接点の継続
訪日観光客は旅先で得た感動や発見をSNSで発信する傾向が強く、それが越境ECへの新たな流入を生むトリガーになります。観光中に「映える」体験や写真映えする商品パッケージを用意することは、SNSシェアを促す上で非常に効果的です。
さらに、InstagramやX(旧Twitter)、YouTube、TikTok、WeChatなどのプラットフォームを活用し、ユーザー生成コンテンツ(UGC)を起点とした自然な拡散を促すことも重要です。現地語のハッシュタグやリポストキャンペーンなどでエンゲージメントを高めれば、越境ECへの流入導線として大きな役割を果たします。
4-c. 越境ECと連携した施策の傾向と実践例
成果を上げている越境EC事業者に共通して見られるのは、次のような取り組みです。
- 観光地に立地する店舗で、多言語対応した接客と越境ECへの導線を一体化させている
- 訪日中に体験した文化コンテンツや商品の世界観を、帰国後もECで追体験できるように設計している
- LINEやWeChatなどを活用し、会員登録後にパーソナライズされた情報や特典を配信して、リピート購買へとつなげている
こうした事例に共通するのは、「旅行中の体験」と「帰国後の購買」を分断せず、ひとつの購買体験として統合的に設計していることです。特別なシステムや大規模な予算がなくても、小さな工夫と配慮によって、越境ECの成果を着実に高めていくことが可能です。