「地方の事業者にこそ、海外展開に挑戦してほしい。ZenPlusはそのきっかけになり得ると思っています」
そう語るのは、徳島県内の中小企業・小規模事業者の支援を通じて地域経済の発展に取り組む、徳島商工会議所 経営支援部 事業推進課の瀧野 侑平氏。
同商工会議所では、物価高騰や人材不足、最低賃金の上昇といった経営課題が深刻化する中、企業の持続的な発展に向けた支援を強化。特に販路開拓や業務の効率化といった「攻めと守り」の両面から、地域企業のDX推進を後押ししています。その一環として、2021年より越境ECモール「ZenPlus」との業務提携をスタート。海外市場へのチャレンジ支援に取り組んできました。
徳島商工会議所とZenPlusがどのような連携を進め、地域の事業者にどんな変化をもたらしているのか。瀧野氏に詳しく話を伺いました。
ー 徳島商工会議所様について教えてください。
徳島商工会議所は、地域に根ざした中小企業・小規模事業者の支援を軸に、地域経済・社会の持続的な発展に貢献する総合経済団体です。業種・規模を問わず幅広い会員企業の声に耳を傾けながら、経営課題の解決やビジネスチャンスの創出に取り組んでいます。
特に会員企業の多くを占めるのは小規模事業者で、製造業のほか、小売業や飲食業の比率も高いのが特徴です。なかでも近年は、多くの業種の現場から「価格転嫁が追いつかない」といった切実な声も寄せられており、商品が売れても利益が出ないという“赤字販売”に陥ってしまうケースも散見されます。
近年では、原材料費やエネルギーコストの高騰、人材不足、最低賃金の引き上げなど、事業環境の変化に直面する企業が増加。特に徳島県は、2024年に全国でも最高水準の賃上げ率(+84円/+9.4%)を記録しており、経営効率化や生産性向上へのニーズが一層高まっています。
徳島商工会議所では、これらの状況に対し「地方こそDXを進めるべき」という考えのもと、業務効率化や販路開拓を中心としたデジタル支援に注力。企業の実態に即した提案や支援を通じて、会員企業が持続的に発展できるよう、多方面からサポートを続けています。
ー ZenPlusとの取り組みは2021年から始まったとのことですが、具体的にどのような取り組みかご説明いただけますか。
当時はちょうどコロナ禍の真っただ中で、事業者の皆さんも急速に変化する環境の中で手探りの対応を迫られていました。
補助金も多く出ていた時期でしたが、例えば空気清浄機の設置やテイクアウト対応といった感染対策が主流で、ある意味“みんなが同じ方向を向いている”ような状態でした
さらにEC構築についても、非対面での商売の手法がデフォルトになっていたこともあり、「補助金が使えるならサイトを作りたい」という相談が相次ぎました。しかし、取り扱い商品によっては、大企業との低価格競争に巻き込まれる可能性が高く、国内ECの領域ではこれから競争が一層激しくなるだろうと感じていました。
そんな時、当時のZenPlus営業の方から連絡をいただき、まずは違う担当者が話を聞いてくれました。
その担当者が「これは瀧野に任せよう」と話を回してくれたことで、当時まだ総務企画部にいた私が越境ECの可能性を検討するようになったんです。実はその頃、関西だけでなく、鎌倉の商工会議所さんでもすでにZenPlusを使った海外販路開拓を進めていたことを聞き、「これは関西に地の利がある徳島でも活かせるのではないか」と思ったのが始まりでした。
ZenPlusさんは、言語・決済・配送といった越境のハードルをクリアできる仕組みを持っていて、中小企業や個人事業主でも安心して取り組めるというのが大きな魅力でした。他の会議所でも導入が進んでいたこともあり、うちでもぜひやってみようと決断しました。
2024年からは、セミナーも本格的に開始しています。リアルとオンライン両方に対応していただいて、内容も非常に実践的なんです。たとえば、商品登録のコツやページの改善、出品後のプロモーション支援など、会員の皆さんにとって「すぐに使える情報」を提供していただいています。
セミナーをきっかけに、「その場で登録しました」という反応も多く、非常にスムーズな導入支援ができていると感じています。また、Discover TokushimaというLP(ランディングページ)も作成していただき、観光資源と連動したプロモーション展開も始まっています。
ー ZenPlusとの取り組みを行い、率直なご感想としてはいかがですか。
ZenPlusさんとの取り組みには非常に満足しています。特にありがたいのは、フォローの手厚さと対応の早さです。セミナーや説明会も、非常に協力的な姿勢で柔軟に対応してくださっているのが印象的ですね。リアル開催にもオンライン開催にも、どちらにも応じていただいています。
実際に会員企業の方からも、「セミナー後すぐに登録した」「すぐ出品に関するセミナーの案内が来たので安心して進められた」といった声が届いています。導入から出品までの流れがとてもわかりやすく、かつ丁寧にサポートしてもらえるというのは、特に専任の担当者を置くことが難しい小規模事業者さんにとって大きな安心材料になります。
県の補助金を活用して制作した徳島専用の特設ページ(Discover Tokushima)では、地域の特産品や観光資源と組み合わせた情報発信ができる構成になっていて、観光関連団体や地域のプロモーション施策とも連携しやすくなっています。
ただ商品を並べるだけでなく、「徳島の魅力ごと伝える」場になっているのが特徴です。
このLP(ランディングページ)を導入した後も、ZenPlusさんのフォローが本当に丁寧で、出店・出品後の事業者一人ひとりをしっかり取り込んでくださっているという安心感があります。
また、この取り組みを通じて、これまで当所として支援の機会が限られていたハンドメイド系の事業者さんとも新たに接点を持てるようになったのも大きな変化です。
ZenPlusさんのように、事業者の立場に立って伴走してくれるパートナーがいることで、今まで一歩踏み出せなかった方々が動き出すきっかけになっていますし、私たちとしても非常に信頼を寄せているサービスです。
ー 取り組み内容や、実際に感じられていることについて教えてください
セミナーにご参加いただく事業者さんの意欲は、とても高いと感じています。
特に、2025年の大阪・関西万博が「成功」と言われる状況になりつつある今、その流れが追い風になっている実感があります。
セミナーの中でも、特に関心が高いのがZenPlusにおける実務面のテクニックです。商品ページの工夫やキーワードの考え方、プロモーション方法など、具体的で即実践できる内容を知りたいという声が多く、実際に学んだことをそのまま自分のストアに落とし込んでいる事業者さんも増えてきました。
一方で、これは率直に申し上げると、ZenPlusは“無料で始めやすい”反面、「とりあえず出してみた」という方には、なかなか実益につながりにくい面もあるという現実もあります。だからこそ、セミナーを通じてモチベーションを引き上げながら、「自分で考え、改善していく姿勢」も一緒に育てていくことがとても重要だと感じています。
最終的に、越境ECで成果を上げられるかどうかは、「出してから売れるまでのリードタイムをいかに短縮できるか」が鍵になると思っています。そのためにも、引き続き丁寧な支援と実践的なアドバイスを、ZenPlusさんと一緒に届けていけたらと考えています。
ー ZenPlusのサービスは、どのような会社に合うと思われますか。
「出して(出品して)終わり」「出せば売れるだろう」と考えているような企業には、正直あまり向いていないと思います。
一方で、同業他社の販売実績のある商材を参考にしつつ、良い点はしっかり取り込み、そのうえでさらに差別化を考え続けられるような企業には、とても相性が良いのではないかと感じています。
また、すでに自社(自店)でインバウンド(海外の消費者)向けに商品を販売した経験があり、実績もある企業であれば、他社以上に販売のチャンスがあるのではないかと思います。イメージとしては、「すでに関係のあるお客様に対して、繰り返し営業をかけていくようなもの」に近いと感じています。
ZenPlusというモールは、店舗や商品が全く知られていない状態から始まるケースが多い中で、そうした“ゼロの状態”よりも一歩前に出たところからスタートできる事業者にとっては、非常に有利な環境だと思います。
今後は、そうした視点を持ちながら、出店・出品に向けた支援をより効果的に進めていけたらと考えています。
ー 今後、ZenPlusとの取り組みにおいて、実現したいことや目指す目標に期待することについて教えてください。
セミナーの取り組みも3年目に向かう中で、今後は販売先となる国を絞って特化していくべきか、それとも引き続き全世界を対象に拡大していくべきか、カントリーリスク等を踏まえた大局的な判断のタイミングに差し掛かっていると感じています。
徳島県では、2023年5月より、後藤田新知事の下で、新たな県政が展開されています。知事は積極的に海外に目を向ける方で、特にタイとの経済・産業連携の強化に注力されており、そういった動きと足並みを揃えるかたちでアジア圏を重点市場として強化する選択肢も検討課題のひとつです。
一方で、実際に動いている商品の傾向を見てみると、たとえば味噌などの食品はオーストラリア、ポーランド、アメリカといったさまざまな国で売れ始めており、今後のキャンペーン結果を見ながら、戦略的に展開国を見極めていく必要があると考えています。また、県として行政の支援が今後入ってくるようであれば、その動きにあわせて販売エリアを再検討する余地もあると思います。
さらに、徳島県には食品だけでなく、伝統工芸品の事業者さんも多くいらっしゃいます。今後はその分野にもより踏み込んで支援を広げていきたいです。具体的には、海外のバイヤーや顧客に製造現場を訪れていただく“ファクトリーツアー”の開催も視野に入れており、現場で商品に触れていただいた後、実際の購入はZenPlus経由で行ってもらうという流れもつくっていけるのではないかと期待しています。
現在、出店事業者は「1期生」(2024年の越境ECセミナー受講者)と「2期生」(2025年の受講者)に分かれてきており、それぞれのステージに応じた支援を展開しています。1期生に対しては、出品ページの内容をベースにしたブラッシュアップ事業(個別相談会)を希望に応じて実施。2期生には出品準備や基本支援を重点的に行い、ZenPlusさんとともに段階的に寄り添う体制を築いていきたいと考えています。
やはり、事業者のモチベーションは「売れること」に尽きます。
まずは販売実績を積み上げることが何よりの原動力になりますし、それを実現するためには、海外の消費者に刺さる情報発信や商品訴求力の強化も不可欠です。
このテーマは、私たちが現在取り組んでいる「販売促進」事業の中核でもあり、施策そのものでもあります。同時に、出店事業者数・出品商品数を継続的に増やし、LP(ランディングページ)もさらに充実させることで、「数」の面からも販売の可能性を拡げていきたいと考えています。
「よそが売れているなら、うちも売れるはずだ」というポジティブな空気を、現場でいかに生み出していけるか。うまくいっている事例を共有しながら、いい取り組みはどんどん参考にしてもらって、それぞれが工夫して成果につなげていく。日々ストアにログインし、改善を積み重ねる。そういった意識付けまでを含めて、今後の支援につなげていきたいと思っています。